ヒヒの女王 トゥブの物語 1


アフリカの大自然に生きる野生動物。

その中で老衰で死ぬほど長生きするものは、いないとよく言われます。

しかし、日々襲いかかる捕食動物、飢えや病、全てを切り抜け長く豊かな一生を送る動物もいます。



そしてある日、姿を静かに消します。


トゥブと言う年老いたメスのヒヒも、逆境に負けず生き抜いてきました。

トゥブ2


トゥブが暮らすのはアフリカ南部のボツワナ。
手つかずの大自然が広がる広大な湿地帯「オカバンゴ・デルタ」です。

過酷な環境のこの辺りでは、メスのヒヒの平均寿命は14才にも届きません。

そんな中でトゥブは飛び抜けて長く生きてきました。
ヒヒの群れの女王となり、実に25年もの間、生き抜いてきたのです。

波乱万丈の一生を送ってきたトゥブ

これまでどのような困難や危険を乗り越えてきたのでしょうか。


伝説のヒヒ、トゥブの生涯の物語です。



 メスのヒヒ、トゥブは生まれた時から特別な存在でした。
トゥブはおよそ40匹のヒヒの群れを束ねる王家のプリンセスとして誕生したのです。

トゥブ3
<かわいい赤ちゃんのトゥブ♥>

ヒヒの社会は、階級と特権によって構成されています。
王家の一族は習わしに従い、食料や住まいそして繁殖まで優先されます。

トゥブは王家の最も新しいメンバーとなりました。

トゥブの父親は群れを支配する雄「アルファオス」です。
力と知恵でオスのトップに登りつめました。

強力な牙を見せつけライバルのオスたちに自分がトップであることを主張します。

BlogPaint

アルファオスは優先的に多くのメスと交尾し、たくさんの子どもがいます。
しかし子育てはしません。

たとえ父親の愛情がなくてもトゥブは気にしません。
王家を営むのは母親側の一族だからです。

トゥブの母親は、群れの中で最上位の地位にいます。

トゥブが他のヒヒたちに、無礼な振る舞いが許されるのは、トゥブが甘やかされたプリンセスだからです。

メスの一族はヒヒの群れの柱となります。
ヒヒの社会は厳格な階級社会です。

上位の一族の全てのメスが、下のメスのどの階級のメスよりも立場が上です。

この仕組みは最上位から最下位まで貫かれています。

トゥブの祖先のメスたちは、何世代にもわたり、特権階級の座を占め続けてきました。

母親の女王の地位を受け継ぐのは一番若いメスのトゥブです。
しかし今はまだ年上の姉にかないません。
<人間の社会では、長男長女が家督を継ぐのに。
人間の社会とヒヒの社会は逆ですね。>


<姉妹ケンカが、始まると・・・>

トゥブが助けを求めています。
母親はいつだってトゥブの味方です。

トゥブたちの群れが暮らすのは、ボツワナ北部に広がるオカバンゴ・デルタです。
広大な湿地帯で日々生き抜くのは並大抵のことではありません。

群れは食べ物や寝床を求めて移動していきます。

足が濡れることなど気にしてはいられません。

水につかった湿地を渡り、乾いた大地を目指します。

幼い子供を水に濡れないように、安全に運ぶのは簡単ではありません、

それでもトゥブの母親は、見事にやってのけます。

オカバンゴ・デルタに生息するのはヒヒだけではありません。

インパラです。
トゥブ6

トゥブ生れてから数週間経ちました。
インパラの群れに興味津々の様子です。

トゥブ14

オカバンゴの暮らしは穏やかに過ぎていきます。


春になりました。


インパラのメスが大きなお腹を抱えています。



インパラにはヒヒのそばで暮らす習性があり、行く先々について行きます。
ヒヒがインパラに食料を与えているとも言えます。

イチジクの実がなるとヒヒは盛んに頬張ります。
木下には食べこぼしが散らばります。
インパラもイチジクが大好物。
気に登れない彼らにとって願ってもないご馳走です。

ヒヒと行動を共にする理由がもう一つあります。
視力が優れているヒヒは目ざとく敵を見つけます。

捕食者は捕食の一挙手一投足を見つめ、決定的な瞬間を狙っています。

茂みの中を忍び足で獲物に近づくヒョウ。

ヒョウはどの動物にとっても恐ろしい敵です。

トゥブは群れの仲間と遊ぶようになりました。
そして自分が特権階級の仲間であることを意識し始めます。

ところがトゥブの楽しい毎日を邪魔する仲間が現れました。

オスの「ジャオ」です。

ジャオはトゥブが特権階級であることなんてお構いなし。
いつもちょっかいを出してきます。

しかし度が過ぎるとトゥブの母親が黙っていません。

ジャオはたちまちキツイお仕置きを受けます。

トゥブは王家の大切なプリンセスなのです。

生れて4ヶ月
トゥブは群れが広い範囲を移動する間の立ち居振る舞いを覚えました。

早くも女王らしさを感じさせます。

母親の背中は木の実をとるのにちょうどよい高さです。

群れは1日15キロも移動しながら植物や昆虫を探します。

ヒヒは食欲旺盛で好き嫌いはほとんどありません。
何百ものヒヒの群れが暮らすオカバンゴ・デルタ

肥沃な湿地帯を移動する暮らしの中で、トゥブは王国での未来の生き方を学びます。

オカバンゴ・デルタはトゥブが一生を送る土地なのです。

ある日の夕暮れ

群れによそ者が現れました。
大人になったばかりで血気盛んなオスです。

オスは自分がいた群れを離れてきました。
近親交配を避けるための本能的な行動です。
交尾の機会を求めて新たな群れを探しています。

子どもとメスが近づき敬意と服従を示してオスの機嫌をとろうとしています。

単独行行動のオスは時に危険です。

アルファオスに挑み群れを支配しようとする者もいます。

母親と交尾しやすいように子どもを殺すものもいます。

このオスがどのような行動に出るのかまだわかりません。

群れのヒヒの警戒心と好奇心の両方があるようです。

トゥブも侵入者に近づかずにはいられません。
敵か味方か自分の行動が適切かどうかはまだ判断がつかないのです。

緊張の時間が続いた後、均衡が破られました。

侵入者は攻撃を開始

群れを支配する意思をあらわにします

危険がどこに及ぶかわかりません。

ターゲットが絞られました!
トゥブの母親です。

母親への攻撃は失敗に終わりました。
しかしこれで終わりではありません。

間もなく他のメスに犠牲者が出ることになります。

翌日、侵入者による被害が明らかになりました。
トゥブも攻撃されました。
命があっただけでも幸運でした。

乳飲み子を抱えた母親たちがトゥブの父親の周りに集まっています。
願いはただ一つ、自分と我が子を侵入者から守ってもらう事です。

アルファオスとしての地位が脅かされています。

父親は自分の立場をよそ者に示すための行動に出ました。

<侵入者が怖気付いて、逃げていきます。>

もう二度と隙を見せてはいけません。

平和な日常が戻りました。

トゥブの母親は一族にの妊娠している母親に熱心に毛づくろいを始めました。
トゥブ9
退屈なトゥブは楽しいことを探しに一人で出かけます。

まずは体操の練習
大きなヒヒに追いかけっこを挑みます。
お姉ちゃんはお休み中

ようやく同じ年頃の遊び相手が見つかりました。
遊んだ後は母親のお乳をもらいに戻ります。

初夏になりました。

インパラのメスたちは間もなく出産の時期を迎えます。

そして赤ちゃんを産むと、森の茂みに隠し、胎盤を食べます。

生れたばかりのインパラが近くにいることを敵に気づかれないようにするためです。

アフリカの草原で、インパラはまるでファストフードのようです。

ほぼ全ての捕食動物がインパラを狙うからです。

走る速さと警戒心が生き抜くための最善策です。
生後数週間の赤ちゃんは足が遅く体も強くないため、より狙われやすくなります。
半数近くが生後1か月以内に命を落とします。
たとえ生き延びたとしても大人になるまで成長できる保証はありません。

母親に世話をされ森に守られながら、子供はあっという間に成長します。

間もなく森から出る時がやってきます。

草原で待ち受ける危険を乗り越える強さと素早さが身に付いたからです。

始めて親と離れて行動します。
最初にあったのはヒヒの群れです

トゥブにとっては突然走って近づいてきた新しい友達。
インパラの子どもから目が離せません。
でもどうやって近づいたら良いのかわからない様子です

腹ばいになってにじり寄る?
それとも座って待ち構える?

おっと!仲良くなるまで少し時間がかかりそうです。

秋の訪れとともに川の水位が上がり水があふれだします。

ヒヒたちの行動範囲のほとんどは水に浸かるようになりました。
ヒヒの群れは水の中を渡って移動していきますが、子どもには大変です。

トゥブはいつものように母親に助けを求めます。
トゥブも随分成長しましたが、困った時にはまだまだ母親が頼りです。
水の中を安全に渡れるように守ってくれるのは、母親しかいません。


そして、ある夜トゥブの幸運な子ども時代は突如終わりを迎えます。

寝る前はいつもと同じでした。


  ヒヒの女王トゥブ②